『アメリ』は、2001年公開のフランス映画で、ジャン=ピエール・ジュネ監督によるロマンティック・コメディです。
物語は、モンマルトルに住む内気で空想好きな女性アメリ・プーランが主人公。彼女はある日、偶然見つけた古い宝物を持ち主に返したことをきっかけに、「人を幸せにすること」に生きがいを見出します。周囲の人々に小さなイタズラや優しい仕掛けをして人生を彩っていく一方で、自分自身は恋に臆病で、なかなか一歩を踏み出せません。やがて、写真ブースの不思議なアルバムを集める青年ニノと出会い、彼女自身も「幸せをつかむ勇気」を試されることになります。
感想
『アメリ』は単なるロマンティック・コメディではなく、日常の中に潜む小さな奇跡や、人と人とのつながりの温かさを鮮やかに描いた作品だと強く感じました。
最初に心をつかまれたのは、幼い頃のアメリが描かれる冒頭のシーンです。心臓が弱いと誤診され、同年代の子どもたちと遊ぶこともなく、想像力の中で世界を広げていく姿は、どこか切なくも愛おしい。例えば、手を突っ込んだ豆袋の感触に喜びを見出したり、スプーンでクレームブリュレの表面を割る音に幸福を感じたりする場面は、彼女の「小さな幸せを見つける才能」を象徴していて、観ている私自身もその感覚を追体験するようでした。
大人になったアメリが、偶然見つけた古いブリキ箱を持ち主に返すエピソードは特に印象的でした。彼女は姿を隠しながらも、持ち主が涙を流して喜ぶ様子を陰から見守り、その瞬間に「人を幸せにすること」が自分の使命だと確信する。あの場面でのアメリの表情は、観客にとっても「自分も誰かに小さな奇跡を届けたい」と思わせる力を持っていました。
また、彼女が周囲の人々に仕掛ける小さな“いたずら”や“贈り物”も忘れがたいです。八百屋の意地悪な店主には、家の中の物を少しずつ入れ替えて混乱させる。孤独な隣人には、彼の人生を彩るような優しい嘘を忍ばせる。そうした行動はユーモラスでありながら、どこか切実で、人間の孤独や不器用さを温かく包み込んでいました。
そして物語の軸となるのは、写真ブースに残された不思議なアルバムをきっかけに出会う青年ニノとの関係です。アメリは彼に惹かれながらも、自分から一歩を踏み出すことができず、遠回りばかりしてしまう。そのもどかしさは観客自身の恋愛の記憶を呼び起こし、彼女の勇気を心から応援したくなりました。ラストで、ついに二人が自転車で街を駆け抜けるシーンは、長い間胸に溜めていた息を一気に吐き出すような解放感があり、観終わった後もしばらく幸福感に包まれました。
『アメリ』は、パリの街並みを鮮やかな色彩で切り取りながら、孤独と優しさ、臆病さと勇気を繊細に描き出す映画でした。観ている間、私は自分の日常の中にも「小さな幸せ」を探したくなり、誰かにそっと優しさを渡したくなる。そんな風に心を動かされた作品でした。
この映画は、人生のささやかな瞬間を愛おしく思い出させてくれる、私にとって特別な一本です。
物語の起承転結
起
幼少期に母を事故で亡くし、父からも十分な愛情を受けられなかったアメリは、内向的で空想好きな大人へと成長する。モンマルトルのカフェで働きながら孤独な日々を送っていた。
承
ある日、部屋の壁の中から子どもの宝物箱を見つけ、それを持ち主に返すことで人を幸せにできると気づく。以後、匿名で周囲の人々を助けることに喜びを見出し、父親や隣人、同僚などに小さな奇跡を起こしていく。
転
しかし、自分自身の幸せには臆病で、恋心を抱いた青年ニノに対してはなかなか素直になれない。匿名のまま人を助け続けるだけでは、自分は孤独のままではないかという葛藤に直面する。
結
勇気を出してニノに想いを伝え、二人は結ばれる。アメリは「他者を幸せにすること」と「自分自身の幸せを受け入れること」の両方を手に入れ、物語は温かい余韻を残して幕を閉じる。
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