映画『ランゴ』感想とあらすじ

水槽の中で孤独に芝居をしていたペットのカメレオンが、事故で砂漠に放り出され、西部劇さながらの町「ダート」に迷い込みます。そこで彼は「ランゴ」と名乗り、偶然の幸運から町の人々に英雄視されて保安官に任命されます。しかし町は深刻な水不足に苦しんでおり、やがて彼は“嘘のヒーロー”から“本物の自分”へと成長していくことを迫られるという成長映画です。

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感想

『ランゴ』を観てまず強く感じたのは、子供向けの映画だと予想していたので「これは本当に子ども向けのアニメなのだろうか?」という戸惑いと驚きでした。物語の冒頭、ガラスの水槽の中で孤独に芝居を繰り返すカメレオンが、自分で作った小道具や人形に向かって台詞を吐き、観客のいない舞台で喝采を夢見る姿は、笑えるようでどこか切なく、彼の存在そのものが「自分は誰なのか」という問いを抱えているように見えました。その水槽が事故で道路に投げ出され、彼が砂漠に放り出される瞬間、まるで観客である自分自身も一緒に現実に突き落とされたような感覚を覚えました。

砂漠をさまよい、アルマジロに導かれて辿り着いた町「ダート」は、典型的な西部劇の舞台を思わせる場所です。埃っぽい酒場に足を踏み入れたランゴが、虚勢を張って「自分は凄腕のガンマンだ」と名乗り、偶然の幸運で町の人々に英雄視されていく場面は、可笑しさと同時に痛々しさもありました。彼の名前すら本当は「ランゴ」ではなく、そこで初めて作り上げた“役”にすぎないという事実が、観客に「人はどこまで仮面をかぶって生きられるのか」という問いを突きつけてきます。

印象的だったのは、町を脅かす存在として登場するガラガラヘビのジェイクです。巨大な体をくねらせ、銃の代わりに尻尾のガラガラから弾丸を撃ち出す姿は、子どもなら泣き出すほどの迫力でした。彼が酒場に現れ、ランゴを睨みつけるシーンの緊張感は、アニメーションであることを忘れるほど。ILMのリアルな映像は、砂漠の乾いた空気や爬虫類の鱗のざらつきまで伝えてきて、観ているこちらの喉まで渇いてくるようでした。

物語の中盤、嘘が暴かれたランゴが町を追われ、砂漠で「西部の精霊」と出会う場面は、寓話的でありながらも胸に迫る瞬間でした。クリント・イーストウッドを思わせるその人物がゴルフカートに乗って現れ、「自分の道を歩け」と諭すシーンは、単なるパロディを超えて、ランゴが“役”ではなく“自分自身”として立ち上がるきっかけになっています。ここで初めて、彼の物語が「町を救う」以上に「自分を見つける」旅であることがはっきりと示されました。

また、音楽の力も忘れられません。ハンス・ジマーのスコアは、エンニオ・モリコーネを思わせる哀愁とユーモアを併せ持ち、特に空を飛ぶコウモリとの追走劇で「ワルキューレの騎行」が流れる場面は、笑いと興奮が同時に押し寄せてきました。さらに、物語を語り継ぐマリアッチのフクロウたちが、時に観客に語りかけるように歌う演出は、古典的な西部劇の語り部を思わせ、作品全体に風刺と遊び心を与えていました。

ただし、すべてが完璧というわけではありません。クライマックスの展開はやや駆け足で、序盤にあれほど恐ろしかったジェイクが最後にはあっさりと退けられてしまうのは少し肩透かしでした。また、子どもには難解すぎ、大人には冗長に感じられる部分もあり、「誰のための映画なのか」という戸惑いは最後まで残りました。

それでも、『ランゴ』は単なる子ども向けアニメではなく、観客に「自分は誰か」「どんな物語を生きるのか」という問いを突きつける寓話的な作品でした。水槽の中で孤独に芝居をしていたカメレオンが、砂漠の町で“役”を演じ、嘘を暴かれ、そして最後には自分自身として立ち上がる。その過程は、私たち自身が日々かぶっている仮面や、社会の中で演じている役割を思い出させます。

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物語の起承転結

水槽の中で孤独に芝居をしていたペットのカメレオンは、ある日事故で飼い主の車から放り出され、砂漠に取り残される。名前すら持たない彼は、偶然出会ったアルマジロに導かれ、西部劇さながらの町「ダート」に辿り着く。町は深刻な水不足に苦しんでおり、住民たちは救いを求めていた。

カメレオンは「ランゴ」と名乗り、虚勢を張って自分を凄腕のガンマンだと語る。偶然の幸運で町の人々に英雄視され、保安官に任命される。彼は町の人々の期待を背負いながらも、内心は臆病で、自分が“偽物”であることに怯えていた。やがて水不足の背後に町の権力者である市長の陰謀があることが示唆され、ランゴは真実を探ろうとする。

やがてランゴの嘘が暴かれ、町の人々から追放されてしまう。孤独と挫折の中で彼は「西部の精霊」と出会い、「自分の道を歩け」という言葉を受け取る。この出会いをきっかけに、ランゴは“役”を演じるのではなく、本当の自分として立ち上がる決意を固める。再び町に戻った彼は、恐ろしいガラガラヘビのジェイクとも対峙し、市長の悪事を暴こうとする。

最終的に市長の陰謀は明らかになり、町の水は人々の手に戻る。ジェイクも市長を見限り、ランゴの勇気を認めて去っていく。町の人々はランゴを本当の保安官として受け入れ、彼自身も「偽物のヒーロー」から「自分自身の物語を生きる者」へと成長する。

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