『127時間』は、実際に起きた遭難事件をもとにしたサバイバル映画です。主人公は登山家アーロン・ラルストン。ユタ州の峡谷で一人冒険していた彼は、不運にも落ちてきた岩に右腕を挟まれ、身動きが取れなくなります。
そこから始まるのは、わずかな水と食料で生き延びようとする127時間の孤独な闘い。
感想
『127時間』を観終えたあと、ただ「生存の物語」だったとはとても言えない。むしろ、観ているだけでもアーロン・ラルストンと一緒にあの狭い岩の裂け目に閉じ込められ、彼の呼吸や汗、乾ききった喉の渇きまで共有させられるような体験だった。
映画は冒頭から異様なほどのエネルギーで始まる。オフィス街を行き交う人々の群れと、ラルストンが自転車で荒野を駆け抜ける姿がスプリットスクリーンで交互に映し出される。音楽はFree Bloodの「Never Hear Surf Music Again」。その疾走感に、彼の自由奔放さと無鉄砲さが一瞬で伝わってくる。途中で出会う二人の女性ハイカーと地下の水場に飛び込むシーンは、まるで青春映画の一場面のように明るく、後に訪れる孤独との対比を際立たせていた。
しかし、20分ほどで状況は一変する。小さな岩が転がり落ち、彼の右腕を岩壁に押し付ける。あの瞬間の「あー!」という叫びは、観客の心臓をも掴んで離さない。そこから先は、ほとんど動きのない空間での127時間。けれど退屈するどころか、彼の表情の変化や小さな仕草一つ一つが緊張感を生み出していく。
印象的だったのは、彼がビデオカメラに向かって「モーニングショー」のように自分をインタビューする場面だ。自分の愚かさを笑い飛ばしながらも、どこか涙ぐみそうな顔。あのユーモアが、逆に彼の孤独と絶望を強調していた。また、喉の渇きに耐えかねて自分の尿を飲むシーンでは、観客も一緒に喉が焼けるような感覚を覚える。
ボイル監督の演出は、単なる「閉じ込められた男の記録」に留まらない。水筒の底から見上げるショットや、光が差し込む一筋の太陽光、そして幻覚のように現れる家族や恋人の姿。とりわけ、suvの中で裸のまま騒ぐパーティーのフラッシュバックは、彼の自由奔放な過去と、いま動けない現実の対比を鮮烈に刻みつける。
そして、誰もが知っているあの「決断」の瞬間。ナイフが神経を断ち切るときの音が、耳に突き刺さる。私は思わず目を背けたが、それでも画面から伝わる彼の苦痛と決意は避けられなかった。あの場面は単なる残酷描写ではなく、「生きたい」という意志の極限の表現だったと思う。
ラスト、血まみれで岩場を抜け出し、ようやく人に出会って「助けてくれ!」と叫ぶ瞬間。初めて彼が他者に頼る姿を見て、胸が熱くなった。孤独を誇っていた男が、ようやく人とのつながりに救われる。その姿に、観客もまた「生きるとは何か」を突きつけられる。
『127時間』は、ただのサバイバル映画ではない。乾いた岩の裂け目の中で、アーロン・ラルストンが自分の過去と向き合い、孤独を乗り越え、人間としての弱さと強さを同時にさらけ出す物語だ。
物語の起承転結
起
アーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)は、ユタ州のブルージョン・キャニオンへ一人で冒険に出かける。彼は自由奔放で、誰にも行き先を告げずに出発するほど自信家。途中で出会った二人の女性ハイカーと水場で遊び、笑顔で別れた後、彼は再び孤独な探検へと戻っていく。 しかし、岩場を下っている最中、小さな岩が転がり落ち、彼の右腕を岩壁に押し付けてしまう。ここから127時間に及ぶ孤独な闘いが始まる。
承
腕を固定されたまま、彼は持っていた少量の水や食料で生き延びようとする。ナイフやロープを使って脱出を試みるが、岩はびくともしない。 時間が経つにつれ、彼は極度の渇きに苦しみ、ついには自分の尿を飲んで命をつなぐ。孤独の中で彼はビデオカメラに向かって「自分へのインタビュー」を始め、家族や友人への後悔を語り、笑いと涙が入り混じる姿を見せる。 さらに幻覚やフラッシュバックに襲われ、過去の恋人や家族との思い出、そして自分の傲慢さを突きつけられる。
転
5日目、体力も限界に近づいた彼は、幻覚の中で未来の自分の子どもを見る。その「まだ生きるべき理由」に突き動かされ、ついに決断する。 鈍いマルチツールのナイフで自らの右腕を切断するのだ。骨を折り、神経を断ち切る瞬間には鋭い音が響き、観客も思わず目を背けるほどの痛みが伝わる。だが、その行為は絶望ではなく「生への意志」の極限の表現だった。
結
腕を失ったラルストンは、血まみれの体でキャニオンを這い出し、太陽の光を浴びながら必死に歩き続ける。やがてハイキング中の家族に出会い、ついに「助けてくれ!」と叫ぶ。 孤独を誇っていた男が、初めて他者に救いを求める瞬間。その姿は、ただのサバイバルを超えて「人はなぜ生きるのか」「人とのつながりがいかに大切か」を観客に突きつける。 映画は、実際のラルストン本人の映像を映し出し、彼がその後も登山を続けていることを伝えて幕を閉じる。
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