映画『ザ・ハント』感想とあらすじ

『ザ・ハント』は、アメリカの政治的分断をブラックユーモアで風刺したサバイバル・アクション映画です。

物語は、見知らぬ人々が目を覚ますと野原に放り出され、武器を与えられた直後にリベラルなエリートたちによって狩られる、というショッキングな幕開けから始まります。

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感想

『ザ・ハント』を観終えてまず強く残ったのは、冒頭の混乱と笑いの入り混じった衝撃でした。目を覚ました人々が口に猿ぐつわをされ、広い野原に放り出される。やがて大きな木箱が開き、中から銃やナイフがぞろぞろと出てくる。観客としては「誰が主人公なのか」を探しながら見守るのですが、次々と候補が無惨に殺されていく。エマ・ロバーツのような有名な顔ぶれすらあっさり退場してしまう展開に、思わず笑ってしまうと同時に、この映画が「誰も安全ではない」というルールで進むことを悟らされました。

その中で浮かび上がってくるのがクリスタルです。彼女は派手に自己紹介するわけでもなく、ただ淡々と状況を見極め、必要なときだけ行動する。ガソリンスタンドで店主を疑い、わずかな違和感から罠を見抜く場面は、彼女の冷静さと直感の鋭さを象徴していました。さらに印象的だったのは、仲間に向かって「ウサギとカメ」の寓話をねじ曲げた形で語るシーン。母から聞かされたというその残酷なバリエーションは、彼女の世界観を垣間見せると同時に、この映画全体のブラックユーモアを凝縮しているように感じました。

暴力描写はとにかく過剰で、爆発や銃撃、罠にかかる死体の数々は、リアルさよりも残酷な笑いを誘います。血しぶきが飛び散るたびに「またか」と苦笑し、やがてそれがこの映画のリズムになっていく。

そしてクライマックス、クリスタルとアテナ(ヒラリー・スワンク)の一騎打ち。豪奢な「マナー(館)」で繰り広げられる格闘は、まるで『キル・ビル』を思わせるほど長く、家具やキッチンを巻き込んだドタバタの末に、二人が血まみれで床に転がる姿は印象的。アテナが「これはマナーじゃない!」と必死に訂正するくだりや、グリュイエールチーズを使ったグリルドチーズのこだわりを語る場面など、エリートたちの滑稽さが最後まで皮肉たっぷりに描かれていたのも忘れられません。

この映画の面白さは、政治的な左右どちらかを叩くのではなく、両極端を同じように笑い飛ばしている点にあります。リベラルも保守も、ステレオタイプに従って行動する姿は等しく愚かで、「これは自分のことを笑っているのかもしれない」と気づかされる。だからこそ、クリスタルの「どちらにも属さない」立ち位置が際立ち、彼女が最後にアテナの靴とドレスを身にまとい、シャンパンを飲み干して飛行機に乗り込む姿は、皮肉でありながらも痛快なカタルシスを与えてくれました。

総じて『ザ・ハント』は、深い思想を語る映画ではありません。むしろ「政治に振り回されること自体が滑稽だ」と笑い飛ばすための、血まみれの風刺劇です。

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物語の起承転結

アメリカのどこかで、見知らぬ男女が目を覚ます。口には猿ぐつわ、場所は広い野原。近くには大きな木箱が置かれており、中には銃やナイフなどの武器が詰め込まれている。状況が飲み込めないまま人々は武器を手に取るが、直後に遠くからの銃撃や爆発で次々と殺されていく。どうやら「リベラルなエリートたち」が「保守的な“デプロラブル”」を狩るために仕組んだ“人間狩りゲーム”が始まっていた。

序盤で観客が「主人公だろう」と思った人物たちが次々と死んでいく中、静かに生き残っていくのがクリスタルという女性。彼女は派手に自己主張することなく、冷静に状況を分析し、わずかな違和感から罠を見抜く。ガソリンスタンドで店主夫婦を疑い、即座に撃ち殺す場面は、彼女の直感と冷徹さを象徴している。やがて彼女は捕らえられた仲間や敵の会話から、この狩りが「ネット上の陰謀論や政治的対立」をきっかけに始まったことを知る。

クリスタルは次々と敵を倒しながら、狩りを主導する黒幕・アテナの屋敷へと辿り着く。アテナはリベラルなエリートの象徴であり、皮肉や知識を振りかざしながらも、どこか滑稽な人物。二人は豪奢な館(アテナは「これはマナーじゃない!」と訂正する)で壮絶な一騎打ちを繰り広げる。キッチンを舞台に家具や食器を巻き込みながらの格闘は、血まみれでありながらもどこかコミカルで、まるで『キル・ビル』のパロディのよう。

死闘の末、クリスタルはアテナを倒す。彼女はアテナのドレスと赤いハイヒールを身にまとい、シャンパンとキャビアを口にしながら飛行機に乗り込む。その姿は、狩られる側の“デプロラブル”から、エリートの象徴を奪い取った“勝者”への変貌を示すかのよう。物語は、極端なリベラルも保守も等しく滑稽であり、結局は「どちらにも属さない者」が生き残るという皮肉な結末で幕を閉じる。

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