『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』は、1960年代のアメリカ南部・ミシシッピ州ジャクソンを舞台にした人間ドラマです。
物語の中心は、白人家庭で働く黒人メイドたちと、彼女たちの声を本にまとめようとする若い白人女性作家志望のスキーター(エマ・ストーン)。差別や偏見が当たり前だった時代に、アビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)やミニー(オクタヴィア・スペンサー)といったメイドたちが勇気を出して自分たちの体験を語り始めることで、彼女たちの友情や誇り、そして社会の不条理が浮かび上がっていきます。
感想
物語の舞台は1960年代のミシシッピ州ジャクソン。白人家庭に仕える黒人メイドたちの日常と、その背後にある差別や理不尽さが描かれる。だがこの映画は単なる「差別の告発」ではなく、登場人物たちの表情や仕草、そして小さなやり取りの積み重ねによって、観ていて強烈な感情を呼び起こす。
冒頭、アビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)が「私はこれまで17人の白人の子どもを育ててきた」と語るシーンがある。彼女自身の息子を失った痛みを抱えながら、他人の子どもに愛情を注ぐ姿は、静かでありながら圧倒的な力を持っていた。小さなメイ・モブリーに「You is kind, you is smart, you is important」と繰り返し伝える場面は、観ている私自身にも「忘れてはいけない言葉」として刻み込まれた。
一方で、ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)の存在は観客の怒りを煽る。彼女が「有色人種専用トイレ」を設置させようと執拗に主張する場面は、差別がいかに日常の中に制度化されていたかを突きつける。雨の中、ミニー(オクタヴィア・スペンサー)が屋外のトイレを拒み、家の中のバスルームを使ったことで解雇されるシーンは、理不尽さと同時に彼女の誇り高さを感じさせた。後に彼女が「チョコレートパイ」で仕返しをする場面は、観客に痛快な笑いを与えつつも、その裏にある屈辱と怒りを忘れさせない。
また、セリア(ジェシカ・チャステイン)の存在も印象的だ。上流社会から「白い下層」として蔑まれ、孤立する彼女が、ミニーと心を通わせていく過程は、差別の構造が単純な「白と黒」だけではなく、階級や性別の中に複雑に絡み合っていることを示していた。特に、流産を繰り返し孤独に苦しむセリアをミニーが支える場面は、二人の友情が単なる「雇い主と使用人」の関係を超えていることを強く感じさせた。
映画全体を通して、ユーモアの使い方も巧みだった。シシー・スペイセク演じるヒリーの母親が、娘を公然とからかう場面や、サロンでの女性たちの噂話は、観客を笑わせながらも、その笑いの裏にある残酷さを際立たせる。笑いと涙が交互に押し寄せることで、物語は決して「説教臭い」ものにならず、むしろ観客を深く巻き込んでいくのが印象的だった。
ただし、この映画が「安全な物語」として描かれていることも否めない。暴力や命の危険はほとんど画面に現れず、差別は「意地悪な白人女性」の問題として単純化されているようにも見える。実際にその時代を生きた人々にとっては、もっと切実で恐ろしい現実があったはずだとも感じた。
それでも、ヴィオラ・デイヴィスとオクタヴィア・スペンサーの演技は圧倒的で、彼女たちの存在感が映画全体を支えていた。特にラスト、アビリーンが雇い主に不当解雇され、涙をこらえながら家を去るシーン。小さなメイ・モブリーが泣き叫び、アビリーンが「You is kind, you is smart, you is important」と最後にもう一度伝える姿に、私は感動してしまった。あの瞬間、この映画が単なる「娯楽」ではなく、観客の心に問いを残す作品であることを確信した。
『ヘルプ』は、差別や不平等を「過去の物語」として片付けるのではなく、今も続く問題として私たちに突きつける。
物語の起承転結
起
1960年代初頭のミシシッピ州ジャクソン。白人家庭で働く黒人メイドたちは、低賃金で差別的な扱いを受けながらも、日々子どもを育て、家を支えていた。 大学を卒業したばかりの白人女性スキーター(エマ・ストーン)は、友人たちが結婚や社交に夢中になる中で、自分は作家として生きたいと願っていた。彼女は新聞の家事コラムを担当することになるが、そこで出会ったメイドのアビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)の誠実さに心を動かされる。やがてスキーターは「メイドたちの本当の声を記録したい」と考えるようになる。
承
しかし、当時の南部で黒人が白人社会の不正を語ることは命がけだった。最初は誰も協力しようとしなかったが、アビリーンが勇気を出して自分の体験を語り始める。続いて、気の強いミニー(オクタヴィア・スペンサー)も加わり、少しずつ証言が集まっていく。 一方で、町の有力者ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)は「黒人専用トイレ」を設置させるなど、露骨な差別を広めていた。ミニーはその理不尽さに耐えきれず、解雇されるが、後に「チョコレートパイ」で痛烈な仕返しをする。このエピソードは、恐怖と笑いが入り混じる象徴的な場面となる。
転
スキーターとメイドたちの証言はついに一冊の本としてまとめられる。出版されると、町の人々は「これは自分たちのことではないか」と騒ぎ出し、ヒリーは激怒。スキーターは友人たちから孤立するが、彼女自身は「真実を伝える」という使命を果たしたことで成長していく。 一方、メイドたちは本を出したことで仕事や生活を失う危険にさらされる。特にアビリーンは、ヒリーの策略によって長年仕えてきた家庭から解雇されてしまう。
結
アビリーンは涙をこらえながら、育ててきた幼いメイ・モブリーに最後の言葉をかける。 「You is kind, You is smart, You is important」 ――その言葉は、差別に満ちた社会の中で、子どもに人間としての尊厳を伝えようとする彼女の祈りのようだった。 スキーターはニューヨークへ旅立ち、作家としての道を歩み始める。残されたメイドたちは依然として厳しい現実に直面しているが、彼女たちが声を上げたことは確かな一歩となり、未来への希望を示して物語は幕を閉じる。
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