映画『ダーク・シャドウ』感想とあらすじ

『ダーク・シャドウ』は、ティム・バートン監督とジョニー・デップが組んだゴシック・コメディ映画です。

物語は18世紀のメイン州から始まり、魔女アンジェリーク(エヴァ・グリーン)に呪われて吸血鬼にされたバーナバス・コリンズ(ジョニー・デップ)が、200年後の1972年に目覚めるところから展開します。

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感想

『ダーク・シャドウ』を観終えてまず強く残ったのは、ティム・バートンらしいゴシックな映像美と70年代のけばけばしい色彩が奇妙に同居する独特の世界観だった。冒頭、18世紀のコリンズ家の繁栄と、バーナバス(ジョニー・デップ)が魔女アンジェリーク(エヴァ・グリーン)の呪いで吸血鬼に堕ち、棺に閉じ込められるまでのプロローグは、重厚で悲劇的で、まさに「これから大きな物語が始まる」という期待を抱かせる。だが、1972年に彼が目覚めてからは、雰囲気が一変する。マクドナルドの黄金のアーチを悪魔の印と勘違いしたり、ラヴァランプに見入ったり、テレビに映るカレン・カーペンターを「木工職人か」と思い込むなど、時代錯誤なギャグが次々と繰り出される。正直、この唐突なトーンの切り替えに戸惑いながらも、思わず笑ってしまった。

ただ、物語が進むにつれて、どうしても「何かが足りない」という感覚が強まっていく。ヴィクトリア(ベラ・ヒースコート)が登場したときは、彼女とバーナバスの悲恋が軸になるのかと思ったが、彼女は中盤以降ほとんど姿を消し、ラストで唐突に「私を噛んで」と懇願する展開には説得力がなかった。むしろ、バーナバスとアンジェリークの歪んだ愛憎劇の方がずっと生々しく、二人が屋敷を破壊しながら繰り広げるセックスと戦闘が入り混じったシーンは、滑稽さと狂気が紙一重で、妙に忘れがたい。アンジェリークの肌が陶器のようにひび割れていくクライマックスは、視覚的には圧巻だったが、物語的には「詰め込みすぎ」の印象が拭えない。

キャラクターの扱いにもムラがある。ミシェル・ファイファー演じるエリザベスは気品ある当主として存在感を放つが、物語上の役割は薄い。クロエ・グレース・モレッツの反抗的な娘キャロリンは、最後に唐突に「実は狼女でした」と明かされ、唖然とさせられた。ヘレナ・ボナム=カーターの精神科医ジュリアは、酔っ払いのような軽さで笑わせるが、結局バーナバスに殺されてしまい、その死も物語に深みを与えることはなかった。唯一、エヴァ・グリーンだけは終始スクリーンを支配していた。嫉妬と欲望に突き動かされる彼女のアンジェリークは、バートン映画の中でも屈指の強烈な悪役だと思う。

音楽の使い方も印象的だった。ムーディー・ブルースの「Nights in White Satin」で幕を開け、アリス・クーパーが本人役で登場する場面は、70年代の空気を一気に呼び込む。だがその一方で、ダニー・エルフマンのスコアはほとんど埋もれてしまい、バートン作品らしい音楽的な高揚感は薄かった。

総じて、『ダーク・シャドウ』は「面白い瞬間」と「物語の弱さ」が同居する作品だった。バーナバスがヒッピーたちを惨殺する場面のブラックユーモアや、屋敷の豪奢な美術、アンジェリークの狂気的な存在感など、強烈に記憶に残るシーンは確かにある。しかし、愛の物語としても、家族再生の物語としても、ホラーとしても、最後まで一本の筋に収束しない。観終えた後に残るのは「もっと良くできたはずなのに」という惜しさだ。けれど、その中途半端さも含めて、ティム・バートンらしい奇妙な愛嬌を持った映画だったと思う。

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物語の起承転結

18世紀、メイン州コリンズポート。漁業で成功したコリンズ家の御曹司バーナバス・コリンズ(ジョニー・デップ)は、使用人アンジェリーク(エヴァ・グリーン)の愛を拒み、恋人ジョゼットを選ぶ。怒り狂ったアンジェリークは魔女としての力を解き放ち、ジョゼットを自殺に追い込み、バーナバスを吸血鬼に変えて棺に封じ込める。 ――時は流れ1972年。工事現場で偶然棺が掘り起こされ、200年ぶりにバーナバスが現代に蘇る。

蘇ったバーナバスは、荒廃したコリンズ家の屋敷「コリンズウッド」に戻る。そこには、気丈な当主エリザベス(ミシェル・ファイファー)、反抗的な娘キャロリン(クロエ・グレース・モレッツ)、問題を抱えた弟ロジャー(ジョニー・リー・ミラー)、孤独な少年デイヴィッド、そして精神科医ジュリア(ヘレナ・ボナム=カーター)らが暮らしていた。 バーナバスは「家族を守る」と誓い、隠された財宝を使って家業を立て直そうとする。だが町の漁業を支配しているのは、今も生き続けるアンジェリークだった。彼女は表向きは成功した実業家だが、内心ではバーナバスへの執着と復讐心を燃やしている。

バーナバスは家庭教師として屋敷にやってきた若い女性ヴィクトリア(ベラ・ヒースコート)に惹かれる。彼女はジョゼットの面影を宿しており、バーナバスにとって失われた愛の再来のように映る。しかし物語の中盤以降、彼女の存在は薄れ、代わりにアンジェリークとの歪んだ関係が前面に出る。 アンジェリークはバーナバスを誘惑し、時に激しく愛し合いながらも、結局は彼を支配しようとする。二人が屋敷を破壊しながら繰り広げるセックスと戦闘の混じった場面は、狂気と滑稽さが入り混じる象徴的なシーンとなる。 一方で、家族の秘密も次々と露わになる。キャロリンが実は狼女であること、ジュリアがバーナバスの血を盗んで不老不死を得ようとしたことなど、唐突な展開が続く。

ついにアンジェリークとバーナバスの全面対決が始まる。屋敷は崩壊し、アンジェリークの身体は陶器のようにひび割れ、最後は心臓を差し出すようにして砕け散る。 戦いの後、ヴィクトリアは「私を永遠にして」と願い、バーナバスに自らを吸血鬼にするよう求める。彼女はジョゼットの魂と一体化するかのように崖から身を投げ、バーナバスは彼女を救うために血を与える。 物語は、愛と呪いが繰り返される輪廻のような余韻を残して幕を閉じる。

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