映画『インシディアス』感想とあらすじ

『インシディアス』は、ジェームズ・ワン監督による“幽霊屋敷ホラー”の代表作のひとつです。家族を守るための戦いが描かれる一方で、最後には不気味な余韻を残す結末が待っています。

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感想

『インシディアス』を観てまず驚いたのは、「本当に怖い」と素直に思えたことだ。近年のホラー映画は、ただ大きな音で驚かせるだけの“安っぽいお化け屋敷”のような作品が多く、観終わった後に何も残らないことが多かった。だがこの映画は違った。冒頭のタイトルが赤い文字で画面いっぱいに現れ、甲高い弦楽器の不協和音が鳴り響いた瞬間から、すでに背筋が冷たくなった。あのオープニングだけで「これはただのジャンプスケア映画ではない」と直感したが、その感覚は当たっていた。

物語は、引っ越してきたばかりの一家の長男ダルトンが、屋根裏での小さな事故をきっかけに昏睡状態に陥るところから始まる。最初は「家が呪われているのでは」と思わせる展開だが、実は“家”ではなく“子ども自身”が霊的な存在に囚われている。ここで一気に物語のスケールが広がり、単なる心霊現象から「魂の行方」をめぐる戦いへと変わっていく。

特に印象に残っているのは、母親ルネイがピアノの音を聞いて部屋に入ると、誰もいないのに鍵盤が勝手に鳴っているシーンだ。あの静かな部屋に漂う不気味さは、派手な演出よりもずっと恐ろしい。また、台所で霊媒師エリーズが夫婦に“赤い顔の悪魔”の存在を語る場面で、突然その悪魔が父親ジョシュの背後に現れる瞬間は、心臓が止まるかと思うほどだった。

この映画が優れているのは、血や残酷描写に頼らず、映像と音響だけで観客を追い詰める点だ。暗い廊下に立つ影、子ども部屋のベビーモニターから聞こえる不気味な声、そして「Tiptoe Through the Tulips」が流れる場面の異様な不協和感。どれも現実の生活空間に侵入してくるような恐怖で、映画館を出た後も自宅の暗い部屋に入るのがためらわれるほどだった。

一方で、後半アストラルで幽界に入って息子を救い出すという展開は、やや荒唐無稽で笑ってしまう瞬間もあった。赤い顔の悪魔がまるで『スター・ウォーズ』のダース・モールのように見えてしまい、緊張感が削がれる場面もある。それでも、夢と現実の境界を越えて子を救おうとする父親の姿には、ホラーを超えた家族ドラマとしての力強さがあった。

総じて『インシディアス』は、古典的な幽霊屋敷ホラーの文法を踏まえつつ、映像と音響の工夫で観客を徹底的に怖がらせることに成功している。観ている間は汗ばむほど緊張した。PG-13という制限の中で、ここまで“本物の恐怖”を作り出したジェームズ・ワンの演出力には脱帽だ。

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物語の起承転結

若い夫婦ジョシュとルネイは、三人の子どもと共に新しい家に引っ越してくる。だが長男ダルトンが屋根裏で事故に遭い、原因不明の昏睡状態に陥ってしまう。以降、家の中ではピアノが勝手に鳴る、ベビーモニターから不気味な声が聞こえるなど、説明のつかない怪現象が頻発する。

ルネイは「家が呪われている」と考え、家族は引っ越すが、現象は新居でも続く。やがて霊媒師エリーズとその助手たちが呼ばれ、ダルトンが「幽体離脱」の能力を持ち、魂が“幽界(The Further)”に囚われていることが明かされる。肉体が空っぽになったことで、悪霊や悪魔が彼の身体を奪おうとしているのだ。

ダルトンを救うため、父ジョシュが自ら幽体離脱し、The Further に入る決断をする。暗闇に満ちた異界で、彼は赤い顔の悪魔や不気味な亡霊たちに遭遇しながら、鎖に繋がれた息子を発見する。必死に逃げる二人を、悪魔が執拗に追いかける。緊迫した逃走劇の末、ジョシュとダルトンは現実世界の肉体へと戻ることに成功する。

一見、家族は救われたかに思えた。しかし最後に、ルネイがジョシュの様子に違和感を覚える。写真を撮ろうとした瞬間、彼の背後に“赤い顔の悪魔”が写り込み、そしてジョシュ自身の態度もどこかおかしい。実はジョシュの魂は完全には戻れず、彼の身体はすでに別の存在に乗っ取られていたのだ。ルネイの悲鳴と共に物語は幕を閉じる。

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