『ソルト』は、アンジェリーナ・ジョリーが主演するスパイ・アクション映画です。CIAの敏腕エージェント、イヴリン・ソルトが、あるロシア人亡命者から「彼女はロシアのスリーパー(潜伏工作員)だ」と告発されるところから物語が始まります。仲間からも疑われたソルトは、真相を隠すように逃走を開始し、CIAやシークレットサービスに追われながら、次々と常識外れのアクションを繰り広げます。
感想
映画『ソルト』を観てまず強く感じたのは、リアリティよりもスピード感とスリルを優先した“純粋なアクション映画”としての潔さだ。冒頭、北朝鮮で拷問を受けるソルトの姿から一気に物語は始まり、そこからはほとんど息をつく暇もなく走り続ける。特に印象的だったのは、ソルトが高速道路で次々とトラックの屋根に飛び移っていく場面だ。常識的に考えれば不可能に近いアクションだが、彼女は着地の衝撃をものともせず、まるでオリンピック選手のように駆け抜けていく。その瞬間、私は「これは現実ではなく、映画の中の神話的なアクション・ヒロインを楽しむ作品なのだ」と腹をくくった。
物語の軸は「ソルトは本当にロシアのスパイなのか?」という疑念だが、彼女の行動は常に二重三重の意味を孕んでいて、最後まで翻弄される。CIAの尋問室でロシア人亡命者が「ソルトこそが大統領暗殺を企てるスリーパーだ」と告げる場面では、彼女の表情が一瞬揺らぐ。その微妙な表情の変化に「もしかして本当に…?」と疑いを抱かされ、そこからの逃走劇に一気に引き込まれた。特に、手錠を前にかけられたまま70マイルで走る車から飛び降り、警備を次々と倒していくシーンは非現実だが、観ている最中はただ圧倒されるばかりだった。
一方で、脚本の粗さやご都合主義も目立つ。例えば、ロシアの亡命者がCIAにやってきて機密を暴露した直後に警備を殺して逃げる展開は、論理的に考えれば破綻している。また、ロシア人の描写が「ウォッカを常に持ち歩き、互いを“同志”と呼ぶ」といったステレオタイプに寄りかかっているのも気になった。冷戦時代の古びたイメージをそのまま引きずっている点は、作品の弱点だと感じた。
それでも、アンジェリーナ・ジョリーの存在感がすべてを押し切ってしまう。彼女は95ポンドの華奢な体でCIAやシークレットサービスの屈強な男たちを次々と倒していくが、不思議と「ありえない」と笑い飛ばすよりも「この人ならやりかねない」と思わせる説得力がある。それだけの立ち振舞と品、雰囲気が伝わってくる。特に、エレベーターシャフトを壁伝いに飛び降りていくシーンでは、現実離れしたアクションに思わず苦笑しつつも、その必死さと冷徹さに目を離せなかった。彼女の無言の表情や冷たい眼差しが、単なるアクションスターではなく“裏切り者かもしれない女スパイ”というキャラクターに深みを与えていたと思う。
全体として『ソルト』は、プロットの穴や荒唐無稽な設定を抱えながらも、100分間を一気に駆け抜ける娯楽作だ。観終わった後に冷静に振り返れば「なぜCIAはあんなに無能に描かれているのか」「なぜソルトはアメリカ人を殺さずロシア人ばかり殺すのか」といった疑問が山ほど残る。論理よりも感覚で味わうべき作品だと感じた。
物語の起承転結
起
CIAエージェントのイヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー)は、冒頭で北朝鮮に捕らえられ、拷問を受ける。辛くも帰国し、夫と平穏な生活を取り戻したかに見えたが、ある日、CIAに亡命を求めてきたロシア人オルロフが「ソルトこそがロシアのスリーパー(潜伏工作員)であり、ロシア大統領を暗殺する」と証言する。仲間からの疑念を浴びたソルトは、突如として逃走を開始する。
承
CIAやシークレットサービスに追われながら、ソルトは驚異的な身体能力で逃げ続ける。高速道路でトラックからトラックへ飛び移るシーンや、エレベーターシャフトを壁伝いに飛び降りる場面は、現実離れしていながらも圧倒的な迫力を持つ。彼女の行動は「本当に裏切り者なのか、それとも濡れ衣なのか」という疑念を観客に抱かせ続ける。夫を守ろうとする姿も描かれるが、やがて夫は殺され、ソルトの動機はさらに謎めいていく。
転
物語は次第に二重三重の裏切りの構造を見せる。ソルトの上司であり、唯一彼女を信じていたように見えたテッド・ウィンター(リーヴ・シュレイバー)が、実は真のロシア側のモグラであることが明かされる。ソルトは大統領暗殺未遂や核兵器発射の陰謀に巻き込まれ、彼女自身の正体も「かつてロシアで育成されたスリーパー」であることが示される。しかし彼女は、最終的にロシアの計画を阻止するために行動し、ウィンターを倒す。
結
ソルトはCIAに拘束されるが、彼女の真意を理解したエージェント・ピーボディ(キウェテル・イジョフォー)の協力で逃走する。ラスト、森の中を走り去るソルトの姿が映し出され、彼女の戦いがまだ終わっていないことを示唆して物語は幕を閉じる。観客には「彼女は裏切り者なのか、それとも祖国を救った英雄なのか」という問いが残される。
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