映画『トゥルー・グリット』感想とあらすじ

『トゥルー・グリット』は、コーエン兄弟が監督した西部劇で、父を殺された14歳の少女マティ・ロスが主人公です。彼女は復讐のために、酒浸りで粗野だが腕の立つ連邦保安官ルースター・コグバーンを雇い、さらに同じ犯人を追うテキサス・レンジャーのラビーフと共に、インディアン準州へと旅に出ます。

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感想

『トゥルー・グリット』を観てまず強く印象に残ったのは、冒頭の葬儀の場面からすでに漂う「死」と「正義」の重さでした。14歳の少女マティ・ロスが、父を殺したトム・チェイニーを追う決意を語る声は、子どものものというよりも、すでに大人の覚悟を帯びていて、その瞬間から物語に引き込まれました。彼女が町の馬商人ストーンヒルと値段交渉をする場面では、まだ小柄な少女が大人を言葉で圧倒していく姿に思わず笑いながらも、「この子なら本当に父の仇を討つだろう」と確信させられます。

そこに加わるのが、酔いどれで片目の保安官ルーベン・コグバーン。法廷で彼が過去の銃撃を淡々と語るシーンは、彼がただの英雄ではなく、むしろ粗暴で危うい存在であることを示していて、複雑な感情を抱かせます。マティが「この人こそ真の“グリット”を持っている」と信じて雇うのは、彼女の無鉄砲さと慧眼の両方を表しているようでした。さらに、テキサス・レンジャーのラビーフが加わり、三人の奇妙な旅が始まります。焚き火を囲んで互いに皮肉を言い合う場面や、ラビーフが自慢げに遠距離射撃を披露する場面など、ユーモラスで人間臭いやり取りが続き、単なる復讐譚以上の「道中記」としての魅力がありました。

映像面では、ロジャー・ディーキンスの撮影が圧倒的です。雪の積もる森を馬で進むシーンや、夜の焚き火に照らされた顔の陰影は、まるで古典絵画のように美しく、同時に荒涼とした西部の孤独を感じさせます。音楽も印象的で、カーター・バーウェルが讃美歌「Leaning on the Everlasting Arms」を繰り返し変奏させることで、物語全体に宗教的な厳粛さと哀しみを与えていました。

物語の後半、マティがついにチェイニーと対峙する場面は、長い旅の果てに訪れる決定的瞬間です。彼女の震える手が銃を握り、引き金を引くとき、復讐の達成よりも、彼女が取り返しのつかない一線を越えてしまったことの重さを感じます。その直後に彼女が蛇穴に落ち、命を落としかける展開は、復讐の代償を突きつけるようで胸に迫りました。ルースターが必死に彼女を抱えて馬を走らせるシーンは、単なるアクションではなく、彼自身の贖罪と父性的な愛情の表れとして心を打ちます。

ただし、チェイニーの最期があまりに唐突で、悪役としての厚みが十分に描かれなかった点には物足りなさも覚えました。彼が一瞬だけ見せる弱さや哀れさが、もっと掘り下げられていれば、マティの復讐の意味もさらに複雑になったのではないかと思います。また、エピローグで大人になったマティが語る声は、彼女が決して過去を手放せなかったことを示していて、物語全体を苦い余韻で包みます。復讐は達成されたが、彼女の人生はその代償を背負い続ける――その冷徹さが、コーエン兄弟らしい皮肉でもありました。

総じて『トゥルー・グリット』は、古典的な西部劇の形式を借りながら、復讐と成長、そして暴力の代償を描いた作品でした。

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物語の起承転結

19世紀末のアーカンソー。14歳の少女マティ・ロスは、父を殺したトム・チェイニーを追う決意を固めます。町で馬商人ストーンヒルと交渉し、父の遺産を取り戻す場面では、まだ幼い彼女が大人を言葉で圧倒する姿が印象的です。彼女は「真の度胸(true grit)」を持つと評判の連邦保安官ルースター・コグバーンを雇い、さらに同じくチェイニーを追うテキサス・レンジャーのラビーフも加わり、奇妙な三人組の旅が始まります。

旅の道中、三人は互いに反発しながらも、少しずつ協力関係を築いていきます。焚き火を囲んでの皮肉交じりの会話や、ラビーフが遠距離射撃を誇示する場面など、ユーモラスなやり取りが続きます。やがて彼らはチェイニーが無法者ネッド・ペッパー一味と行動を共にしていることを突き止め、インディアン準州の奥地へと進んでいきます。

ついにマティは川辺でチェイニーと遭遇。彼女は震える手で銃を構え、父の仇を撃ちます。しかしその直後、彼女は後退して蛇穴に落ち、毒蛇に噛まれて命の危機に陥ります。ルースターは必死に彼女を抱え、馬を走らせて夜の荒野を突き進みます。馬が力尽きても彼は少女を背負い、最後の力を振り絞って救おうとする姿は、粗野で自堕落だった彼の人間性を浮かび上がらせます。

マティは一命を取り留めますが、片腕を失い、彼女の人生は大きく変わります。物語は成長した彼女の語りで締めくくられ、彼女がいまだにルースターを忘れられず、彼の墓を訪ねる姿が描かれます。復讐は果たされたものの、そこに爽快感はなく、むしろ「失われたものの大きさ」と「暴力の代償」が強く残ります。

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