『フランケンウィニー』は、ティム・バートンが自分の1984年の短編を長編化したストップモーション・アニメ映画です。物語は、少年ヴィクターが最愛の犬スパーキーを事故で失い、科学の力で蘇らせてしまうところから始まります。「古典ホラーへの愛」と「少年と犬の絆」を、バートンらしい奇妙で美しい映像で描いた作品です。
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感想
『フランケンウィニー』を観てまず強く残ったのは、白黒の映像が生み出す独特の空気感でした。最初に映し出されるのは、少年ヴィクターが自作の怪獣映画を両親に見せるホームムービーのシーン。ぎこちない特撮の中に、彼の孤独と創造力がにじみ出ていて、まるで幼い頃のティム・バートン自身を覗き込んでいるような感覚を覚えました。その後、野球の試合で打ったボールを追いかけてスパーキーが車に轢かれてしまう場面は、唐突でありながらも胸を締め付けるほど切実で、観ているこちらも息を呑みました。
そして、ゴーグルをかけたヴィクターが屋根裏部屋で稲妻を利用してスパーキーを蘇らせるシーン。稲光に照らされる縫い目だらけの小さな犬の姿は、恐ろしいはずなのにどこか愛らしく、まさに「怪物」と「愛すべき存在」が同居する瞬間でした。スパーキーがぎこちなく歩き出し、尻尾を振る姿を見たとき、私は思わず笑みがこぼれました。
ただ、この作品は単なる「少年と犬の再会物語」にとどまりません。秘密を知ったクラスメイトたちが次々と死んだ動物を蘇らせ、巨大なカメが街を踏み荒らし、コウモリと猫が融合した怪物が空を舞う――後半はまるでB級モンスター映画の見本市のように暴走していきます。正直、前半の繊細で胸に迫る物語から一転してしまう展開には戸惑いもありました。個人的には、ヴィクターとスパーキーの関係にもっと焦点を当ててほしかったという思いも残ります。
それでも、風車小屋が炎に包まれるクライマックスで、スパーキーが命を懸けてヴィクターを救う場面には心を揺さぶられました。燃え盛る炎の中で小さな体が必死に動く姿は、単なる「かわいい犬」以上の存在感を放っていて、観客に「愛する者を失うこと」と「それでも共に生きたいと願うこと」の両方を突きつけてきます。
また、脇役たちも印象的でした。科学教師リズクルスキーの「科学は善でも悪でもない、それを使う人間次第だ」という言葉は、子ども向け映画にしては驚くほど鋭いメッセージで、今も耳に残っています。さらに、隣人のエルサと彼女のプードル・パーセフォネが最後に髪に稲妻模様を宿す場面は、『フランケンシュタインの花嫁』への愛情あふれるオマージュであり、思わずニヤリとしました。
全体として『フランケンウィニー』は、古典ホラーへのオマージュと、少年と犬の純粋な絆を描いた物語が同居する、不思議な温度差を持った作品だと思います。物語の整合性やキャラクターの深みには欠ける部分もありますが、ストップモーションの質感や、スパーキーの仕草ひとつひとつに込められた愛情は確かに伝わってきました。観終わったあと、私は「もっと勇気ある結末もあり得たのでは」と思いつつも、やはりスパーキーが尻尾を振ってヴィクターの隣にいるラストに救われた気持ちになりました。
この映画は、論理よりも感情で観るべき作品です。黒と白の影の中で、縫い目だらけの犬が走り回る姿を見ていると、死や喪失の悲しみを抱えながらも、それでも「愛する存在と共にいたい」と願う気持ちの普遍性を強く感じました。
物語の起承転結
起
少年ヴィクターは内気で友達も少なく、唯一の親友は愛犬スパーキー。彼は日々、自作の怪獣映画を撮ったり、科学実験に没頭したりして過ごしていた。ところがある日、野球の試合で打ったボールを追いかけたスパーキーが車に轢かれて死んでしまう。ヴィクターは深い悲しみに沈む。
承
科学の授業で「電気の力」について学んだヴィクターは、フランケンシュタインの物語をヒントに、スパーキーを蘇らせる計画を立てる。屋根裏部屋に実験装置を組み立て、稲妻の夜にスパーキーを蘇生させることに成功。縫い目だらけでぎこちない動きながらも、スパーキーは再び尻尾を振り、ヴィクターと再会を果たす。だが、この秘密をクラスメイトのエドガーに知られてしまう。
転
エドガーをはじめとするクラスメイトたちが、ヴィクターの方法を真似して次々と死んだ動物を蘇らせる。しかし彼らの動機は純粋な愛情ではなく、賞を取るための野心や好奇心だったため、蘇った生き物たちは怪物化して街を襲い始める。巨大化したカメ、コウモリと猫が融合した怪物、グレムリンのような生物たちが暴れ回り、町は大混乱に陥る。物語は、個人的な「少年と犬の再会」から、一気にB級モンスター映画のような騒乱へと変貌する。
結
クライマックスは燃え盛る風車小屋。ヴィクターは炎に巻き込まれ命の危機に陥るが、スパーキーが必死に彼を救い出す。しかしその代償として、スパーキーは再び力尽きてしまう。町の人々は、彼の勇気と愛情を目の当たりにし、今度は住民全員でスパーキーを蘇らせることを決意。再び稲妻の力で命を取り戻したスパーキーは、ヴィクターの腕の中で尻尾を振り、物語は「別れ」ではなく「再会」で幕を閉じる。
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