映画『クラウド アトラス』感想とあらすじ

『クラウド アトラス』は、六つの異なる時代と場所を舞台にした物語を交錯させながら描く壮大な群像劇です。愛、自由、勇気といった人間の営みが、時代を超えて連鎖していくことを体感させる、実験的で壮大な映画です。

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感想

『クラウド アトラス』を観終えたとき、まず感じたのは「これは6本の映画を同時に観たような体験だ」という感覚でした。19世紀の航海日誌から始まり、1930年代の作曲家ロバート・フロビシャーの悲劇的な恋、1970年代サンフランシスコでの記者ルイサ・レイの陰謀追及、2012年の老出版人キャヴェンディッシュのドタバタ逃走劇、2144年ネオ・ソウルでのクローン=ソンミ451の覚醒、そして2321年のハワイでの部族と恐怖の悪魔「オールド・ジョージー」との対峙。これらが数分ごとに切り替わり、まるでチャンネルを次々と変えているように物語が進んでいく。最初の一時間半は正直「何がどう繋がっているのか」と戸惑い、頭の中で必死に糸を探していましたが、終盤にかけて少しずつ響き合い、最後には一つの大きな交響曲のようにまとまっていくのを感じました。

特に印象に残ったのは、俳優たちが複数の役を演じ分ける仕掛けです。トム・ハンクスが19世紀では強欲な医師として人を毒殺し、現代では批評家をビルから突き落とす粗暴な作家を演じ、そして未来のハワイでは恐怖に怯える男ザックリーとして登場する。その彼が最後には勇気を振り絞り、人類の未来を救う役割を担う姿に、魂の贖罪と成長を見ました。ハル・ベリーは時代ごとに探求者や支援者として現れ、常に「真実を求める存在」として物語を導いていく。ヒューゴ・ウィーヴィングはどの時代でも悪役で、未来では悪魔そのものとしてハンクスの耳元で囁き続ける。こうした「魂の役割の反復」が、単なる配役の遊び以上に、輪廻や人間性の普遍性を強く感じさせました。

映像的にも忘れられない場面が多いです。ネオ・ソウルの夜景はなんとも言えない美しさで、ソンミが巨大スクリーンに映し出され「我々の生は我々自身のものではない」と語るシーンには鳥肌が立ちました。逆に2012年の老人ホーム脱出劇では、ジム・ブロードベントが仲間と酒場で蜂起する場面に思わず笑い、同時に「小さな声が大きな変化を起こす」というテーマが軽妙に描かれていることに感心しました。1930年代のフロビシャーが六重奏曲「クラウド アトラス・セクステット」を書き上げるシーンでは、彼の孤独と情熱が音楽に昇華され、その旋律が他の時代にも響いていく仕掛けに胸を打たれました。

ただし、全てが完璧に機能しているわけではありません。特殊メイクでアジア人を白人に見せたり、逆に白人をアジア人に見せる試みは、時に説得力を欠き、物語への没入を妨げました。また、三時間近い上映時間の中で、いくつかの物語はもっと掘り下げて観たかったという欲求も残ります。特にソンミの物語やフロビシャーの悲恋は一本の映画として独立させても十分に成立するほど濃密で、断片的にしか描かれないことがもどかしくもありました。

奴隷を助ける小さな行為、恋人への手紙、批評家を突き落とす衝動的な暴力、老人たちの蜂起、クローンの告白、そして恐怖に打ち勝つ勇気。どれもが孤立した出来事に見えて、時を超えて連鎖し、未来を形づくっていく。

『クラウド アトラス』は決して万人向けではなく、冗長で混乱する部分も多い。しかし、あの三時間を通して体験した「人間の営みの連鎖」という感覚は、他の映画では味わえないものでした。笑い、涙し、困惑し、そして最後に静かな感動に包まれる――そんな稀有な映画体験だったと思います。

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物語の起承転結

19世紀、南太平洋を航海する青年アダム・ユーイングは、奴隷制度の残酷さを目の当たりにし、病に倒れながらも奴隷アトゥアを助ける決断をする。 同時に1930年代のイギリスでは、若き作曲家ロバート・フロビシャーが老作曲家のもとで助手をしながら、自らの代表作「クラウド アトラス六重奏」を書き上げる。彼の恋人シックススミスへの手紙は、後の時代へと受け継がれていく。

1970年代、記者ルイサ・レイは原子力発電所の陰謀を追い、命を狙われながらも真実を暴こうとする。彼女の調査を助けるのは、老いたシックススミスの遺志だった。 2012年、老出版人キャヴェンディッシュはトラブルから老人ホームに閉じ込められ、仲間と共に脱出を図る。この滑稽な物語もまた「自由を求める闘い」として他の時代と響き合う。

2144年の未来都市ネオ・ソウルでは、クローン=ソンミ451が自らの存在に目覚め、人類に向けて「我々の生は我々自身のものではない」と告白する。彼女の言葉は映像として残され、後の時代の人々にとって聖典となる。 さらに遠い未来、文明崩壊後のハワイ。恐怖に支配される男ザックリー(トム・ハンクス)は、科学者メリニム(ハル・ベリー)と出会い、ソンミの教えを信じるかどうかの選択を迫られる。彼の心には悪魔「オールド・ジョージー」が囁き続けるが、最終的に勇気を振り絞り、メリニムを助ける決断を下す。

六つの物語はそれぞれ完結しながらも、互いに小さな痕跡を残し合う。ユーイングの航海日誌をフロビシャーが読み、フロビシャーの手紙をルイサが受け取り、ルイサの物語が映画化されキャヴェンディッシュが観る。ソンミはキャヴェンディッシュの物語を知り、そしてザックリーの時代にはソンミが神話となる。 「一人の行為が未来を変える」というテーマが、時代を超えて繰り返し示される。最後にザックリーは子孫に語り継ぐ――人間の小さな選択が、やがて大きな歴史を形づくるのだと。

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