2002年のサクラメントを舞台にした等身大の青春映画です。主人公クリスティン(自らを「レディ・バード」と名乗る)は、母親との衝突や進学への葛藤、友情や恋愛の揺らぎを通して、自分自身を模索していきます。
感想
青春映画にありがちな美化やご都合主義を避け、登場人物の欠点や不器用さをそのまま描いている点をリアルに描かれています。
母と娘の関係は愛情と衝突が入り混じり、身近で痛切なものとして響きました。互いに強い愛情を持ちながらも、言葉がすれ違い、相手を傷つけてしまう。母は「現実的な愛」で娘を守ろうとし、娘は「自由への憧れ」で母に反発する。どちらの気持ちも理解できるからこそ、彼女たちの口論や和解が胸に迫ります。
サーシャ・ローナンの生き生きとした演技と、ローリー・メトカーフの母親役は特に印象的で、二人の掛け合いが物語の核を成しています。
また、2000年代初頭という時代設定も効果的で、スマートフォンやSNSが普及する前の空気感が、どこか懐かしさと哀愁を与えています。音楽や小道具もその時代を反映し、観客を自然に当時へと引き戻します。
一方で、物語の展開は派手さに欠けると感じる人もいるかもしれません。恋愛や友情のエピソードは典型的に見える部分もあり、主人公のわがままさに共感できない観客もいるでしょう。しかし、それこそが本作の誠実さであり、思春期の不安定さや未熟さを真正面から描いた証でもあります。
観終わった後には、自分自身の青春や家族との関係を振り返りたくなるような、温かくもほろ苦い余韻を残します。
物語の起承転結
起 2002年、カトリック系高校に通う17歳のクリスティン(レディ・バード)は、退屈なサクラメントの生活に不満を抱き、東海岸の大学進学を夢見ている。母親マリオンとは進路や生活態度をめぐって衝突が絶えない。
承 学校生活では、親友ジュリーとの友情や、恋愛(ダニー、カイルとの関係)を経験するが、どれも思い通りにはいかず、失望や裏切りを味わう。家庭では父親の失業や経済的困難も重なり、母娘の関係はさらに緊張する。
転 レディ・バードは「自分らしさ」を求めて反抗を繰り返すが、やがて母の愛情の裏にある不器用さや犠牲を理解し始める。高校卒業後、念願のニューヨークの大学に進学し、サクラメントを離れる。
結 新しい土地で孤独と不安に直面した彼女は、母への感謝と愛情を実感する。最後に母へ電話をかける場面は、反発しながらも深く結ばれている親子の絆を象徴し、物語は静かに幕を閉じる。